引き続き4本のケーブルをレビューします。
4.BELDEN 9395-3m-SS(モントルー)
米国に本社を持つ世界的な「電線」メーカーです。当然音楽用途に限りません。産業用からオーディオ、ネットワーク用までありとあらゆる「電線」を販売している巨大メーカーです。
百年以上続く老舗なので、安心のブランドとしても知られています。音楽業界でも信奉者が多く、ギターケーブルに限らず、ギター内部の配線材やアンプスピーカーの配線材など、さまざまに使われています。「俺のストラト、内部配線ベルデンに換えたった!」などと言うと、仲間内で一目置かれるわけです。
この製品は日本のギターパーツ輸入会社「モントルー」が扱っている製品で、ベルデンの9395ケーブルに、これまたプラグ・スイッチの老舗メーカースイッチクラフト(Switchcraft)のプラグと組み合わせたものです。参考価格3,718円(サウンドハウス)ですがamazonの方が安めに売ってる時もあるので、両方チェックして比べた方がいいです。
太さはベルデンにしてはやや細めの5.97mm。
スペクトラムアナライザ
前回と同じく、赤がカナレG03、黄緑がBELDEN9395で、重なった部分がオレンジになっています。
全体にまんべんなくカナレより持ち上がっている波形です。中音域と高音域の伸びが顕著で、それがパワー感、ラウドネス感に繋がっている印象です。超高音域では赤が出ている…という事は、カナレよりもその周波数帯を下げているという事で、あまり高い音でもキンキンし難いのはその辺りのセッティングかな?と思います。
BELDEN 9395-3m-SS(モントルー)の評価
歪ませた時にノイズを拾いやすいようです。動画で確認できるように、カナレよりもノイズ量が大きいように思えます。よってノイズレス感は4としました。パワー感は7、音質はややfatとしました。
fatと言っても低音だけが出ているわけではなく、高音域も強調されています。オーディオで言うとラウドネスを掛けたような変化で、巷で言う「ベルデンの音」明るく太いをそのまま具現化したような音です。(その1)で挙げた国産3本のナチュラルさとは違い、ドーピング的にドーンと前に出る音です。
もちろんロック、特に歪ませるギターには最適…の筈なのですが、前記のノイズが有りますので、ノイズゲートかHush必須かも。「太くて固い」イメージのベルデンですが、6ミリ弱と細身なケーブルもあって、しなやかで取り回しはしやすい印象です。
5.BELDEN / 8412 THE Wired 3SS
同じくベルデンですが、こちらはベルデン社直の製品です。モントルーと同じく8412ケーブルにスイッチクラフトプラグの構成です。
参考価格は3,100円(amazon)。サウンドハウスでは現在4千円弱と言ったところ。どちらも価格は流動的なので、購入時にその都度チェックした方がお得です。
太さは6.65mmですので、9395と比べると大分太いです。
スペクトラムアナライザ
中音域~高音域は9395とそっくりなのですが、低音域は低く、スッキリした印象はその辺からでしょうか。波形で見るよりももっと押し出しが強い感覚があり、後からスペクトラムを見て意外と9395と違いが少ないのが意外でした。8k~10k辺りの伸びや400~800辺りの厚みが関係してるのかもしれません。
BELDEN / 8412 THE Wired 3SSの評価
9395よりもっと押し出しを強くしたパワーのある音がします。9を付けたパワー感は圧巻の迫力で、これぞベルデンと言った趣があります。歪ませてよし、クリーンで良しですが、歪ませた時のノイズは9395共々少々気になります。
音質も派手ですが、低音はブーミー過ぎず、高音も耳に痛くならず、適度に抑制されていて良いケーブルだと思います。アンプでの歪みで勝負するタイプのギタリストにはうってつけかも。
ケーブルは太くて固くて、こちらもベルデンのイメージ通りのケーブルですが、ケーブル被膜のゴム風の素材の滑りが悪いのも相まって、取り回しにはストレスを感じました。広いステージが主戦場ならそれほど気にならないかもしれませんが、狭いライブハウスでは気を使うかもしれません。
6.PROVIDENCE F201 S/S 3
プロビデンスはケーブルはじめ、エフェクターからギター・ベースまでも手掛ける、プロから上級アマチュア向けの国産メーカーです。プロビデンスのケーブルを使ってると「お、良いケーブル使ってるね」と言われるような、ツウ向けの製品の印象です。
ケーブルだけでも、用途やジャンル別に多くのラインナップがあり、今回のレビューのためにどれを選択するかでも迷います。今回は3千円台で購入可能と言う点からF201 “Fatman”とH207 “Heartbreaker”をセレクト。プラチナム・リンクという同社でもミドルレンジの製品です。
このF201“Fatman” S/S 3の参考価格は3,828円(サウンドハウス)、amazonだと現時点では少し高めです。「ファットマン」と言うくらいですから、低音域に重心を置いていることが予想できますが、メーカーの謳い文句では「オールラウンド」だそうです。太さは6.8mmですから、かなり太い部類に入るケーブルです。
スペクトラムアナライザ
スペクトラム波形を見る限り、意外と低音域はタイトです。特にフロントの波形レベルはカナレと同程度。しかしカナレの弱い部分はしっかり埋め尽くされています。そしてきれいにハイの方まで伸びている印象。赤いカナレの波形はほとんど見えず、全域にわたってF201の方が勝っているように見えます。
PROVIDENCE F201 S/S 3の評価
意外とパワー感はありません。クリーンで強く弾くと軽く歪むセッティングにしていたのですが、なかなか歪みません。音のボリューム的には痩せたカナレより大きく感じますが、パワー感は同程度かむしろ低いかも。しかし音はとても味のあるいわゆる「枯れた」感じがします。アンプ直にも拘らず、EQをすでに通してしまったような、ストラトの皆が知ってる良い音がします。
ギターケーブルはオーディオとは異なり、全くHi-fiである必要は無く、むしろ積極的にローファイで、結果的に良い音が得られればいい訳です。チューブギターアンプなんてローファイの極みですしね。そういった点では、プロビデンスは非常に良い仕事をしているように思いました。
ただ残念なことに、今回どこからかノイズを拾っているようで、全てのケーブルでプロビデンスのみ、クリーンでもジリジリと言うノイズが出てしまいました。これによって「ノイズレス感」の点が低いのですが、今になってそれはちょっとおかしいのではないかと思っています。
これは根拠の無い推測なのですが、ちょうどプロビデンスが意図したチューニングで上げている周波数と、今回のスタジオ環境で発生したノイズの周波数がたまたま合ってしまっているのではないでしょうか?
それを証明するには、同じ環境で色々な測定機材を用意せねばならず、私個人のレベルでは非常に難しいのですが、品質にこだわりがある国産ハイエンドケーブルで耐ノイズ性をおろそかにしているわけは無く、別に何らかの原因があると考えます。
径が太い割にしなやかなケーブルで、取り回しは良好です。プラグの長さが両端で異なっているのも特筆すべき点で、おそらくストラトなどの埋まっているジャック用に片方を長めにしているのだと思います。痒い所に手が届くようなアイデアで、こういうところはさすが日本の技術者ならではだと思います。プラグは24金メッキ。
PROVIDENCE F201 S/S 3の購入はこちら(サウンドハウス)7.PROVIDENCE H207 S/S 3.0m
同じくプロビデンスのH207“Heartbreaker”。ケーブル径は6.0mmとF201と比べると細目、ギターケーブルとしては標準的な太さ。0.8mmの違いですが、実際はかなり違います。
現在のギターケーブルは太さ5.5mm~7mmくらいの間でしのぎを削っています。太い方がいかにも良いケーブルのように見えますが、実際はあまり関係ありません。芯線(導体)や絶縁体などが太ければ当然ケーブルも太くなりますが、安価に作ろうとすれば、外皮を厚くするだけで一見高性能ケーブルのように偽装することもできるわけですから。むしろ太くすることで、しなやかさが失われ、ステージでの取り回しに難があるケースも出てきます。あまり太さにこだわる必要は無いと思います。
参考価格は3,715円(サウンドハウス)、こちらもamazonの方が現在高く出ているようです。「レンジが広くフラットでナチュラル」とメーカーの謳い文句ですが、果たしてどうでしょうか?
スペクトラムアナライザ
ほぼ全域でカナレを上回っていたF201に比べて、こちらは赤い色が目立ちます。特に上下の端で強く赤が出ています。よくエレキギターにEQを掛ける時に、上も下もカットして、中音域の腰のある部分のみを前に出すことが多いですが、ケーブルでそれをやっているように見えます。
PROVIDENCE H207 S/S 3.0mの評価
ノイズレス感もパワー感も点数はF201と同じですが、印象は少し異なります。もっとタイトで軽~く締まった音と言うのでしょうか。音質的にはちょうど中間にしましたが、ちっともフラットでもワイドレンジでもないと思いますが、とっても軽くて芯のある好みの音がします。ここまでで一番ストラトに似合っている感じがします。替えて最初に音を出した時点で、「おぉ~良い音」と感じるようなケーブルです。スペクトラムで書いたように、EQで不要な部分を切って、ギターのおいしい部分のみを前に押し出したような音です。個人的には非常に気に入りました。
ただし、ノイズもF201と同じように出てしまいました。自宅でラインで繋げてみても特にノイズっぽい感じはしないので、前記の推測が当たっていると良いのですが。
プラグはF201と同じく片側がロングタイプ。K24メッキですが、ニッケルメッキも選べるようです。やや細身でしなやかなケーブルで、ステージでの扱いも文句無いと思われます。
プロビデンス2本を弾いてみて、どちらもEQがかった枯れた良い音がしました。このメーカーの特徴だと思います。素材の選択などで、狙った音をケーブルで作っているように思えます。
この音が好きであれば、文句無しに買いだと思います。このメーカー好きなギタリストも多いですしね。それと思ったのですが、これだけケーブルに個性があるのなら、エフェクター類を挟んで別のケーブルと組み合わせても面白いと感じました。ギター側にこれを使って、ペダルボードからアンプには個性の弱いCAJとかね。
そんなわけでまだまだ(その3)に続きます。本当に10本レビューするのは大変でした。次回はあの復活なったモンスターが登場。